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過去の新聞記事(2008年10月24日毎日新聞に掲載されました)

営利も名誉も求めないボランティア活動

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唯一最高の喜びは人々からの感謝

「情けは人の為ならず」という言葉がある。しばしば誤用されるが、本来の意味は、人に親切にすれば相手だけでなく、自分にも良い報いが戻ってくるという意味である。

アジア各地への支援活動を行っている「アイユーゴー」代表理事の新田幸夫さんは「困った人のために何かしたいという気持ちがずっとあった」と語る。その源泉は、彼自身が体験した苦痛にあったのかも知れない。

高校3年生のとき、鼓膜がなくなり手術を受けた。続いて、当時原因不明といわれたレイノー氏病にかかった。未梢血管異常のため手足がしびれ、横にもなれないほど激痛に襲われる。歩くこともできず、両足、片手の手術を繰り返された。

誤解を恐れずにいえば、19歳の少年が人生に絶望していたら、他人に救助される境遇に陥ったとしてもおかしくない。

しかし彼は、同志社大学大学院、ケンブリッジ大学短期留学を経て、NGO活動に見を投じた。その選択が彼の生に輝きを与えたといえるのではなかろうか。

2001年、日本青年会議所(JC)中国・東海地区でGTS(グローバル・トレーニング・スクール)活動に参加した友人たちと共にアイユーゴーを立ち上げた。最初に取り組んだのはタイでの麻薬文化撲滅のための活動だった。

タイ北部に住む少数民族にとって麻薬は痛み止めなどの万能薬として使用されていた。だが必然的に密売者が現れるし、人を殺めたり、子どもを放置するような現実があった。

02年タイ王室基金が貧しい子らのための全寮制学校を建設したとき、アイユーゴーはJC東海地区の人たちの協力のもとに図書館を設立した。子どもたちを麻薬にからむ環境から隔離し、教育の場を与えるために。また麻薬中毒者が治療を受けた後、社会復帰するための職業訓練センターも設けた。

以後、活動領域はラオス、ベトナムなどにも拡がり、農業指導センターや貯水池、橋の建設、保健衛生向上事業など多方面のプロジェクトを推進してきた。

「わたしたちの活動の基本は貧困の撲滅です。最も重要なのは、村人と生活を共にし現地の事業に合った協力を行うことです」

ユニークな活動の一つは牛銀行だ。田畑さえない村人に雌牛を授与して世話してもらう。生まれた仔牛を売った代金は、村が半分受け取って学校管理費にまわす。最近はもっと効率の良い豚に切り替えている。

生活を向上させるためには村人自身の意識改革をしなければならない。タイで農業指導センターを建て有機農業を指導した。ラオスでもセンターを建設しゴムの木の植林を指導。ベトナムでは学校建設や牛銀行などの事業を進めてきた。

井戸を掘るのも重要な課題である。ラオスで体験した忘れがたい思い出がある。

600人が住む村で11基の井戸を掘った。センター井戸にモーターを取り付け、吸い上げた水をパイプラインで村のタンクに送り、各家庭に配水した。「ある日、村を訪れると100人ぐらいの女性が道に並んで出迎えてくれたんです。目に涙を受けべている人もいましたね。私は感動するというより、驚いてしまっって・・・・」

営利も名誉も求めないボランティア活動において、唯一最高の喜びは人々から感謝されることだろう。他者に手をさしのべる行為よってかけがえのない生き甲斐を得ることができる。

彼は天王寺予備校英語科主任、近畿大学非常勤講師を勤めながら、授業の合間を縫うようにしてアジア各地を駆け巡る。

「各地の拠点に代表がいて、絶えず連絡を取っていますが、わたしたちが基礎を築いた事業が動かくなったという所はないですね。むしろもっと活発になっていっていますよ」
あくまで現地の人々と触れ合う信頼関係を築くからこそ、草の根運動が大地にしっかり根付くのだろう。

ノンフィクション作家 高賛侑(コウチャニュウ)
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